by chance? or by design?

今週のby chance or by design? は”イルカ”。

ルカが時速40㌔近くのスピードで泳げるのはなぜか,科学者たちは何十年ものあいだ理解できませんでした。
そのスピードを出すのに必要な筋肉はイルカにはない,と考えていたのです。
しかし,速さの秘密の一つは,脂肪層にありました。
これは複雑な物質で,クジラや他の海洋哺乳類の皮膚の下にもあります。

海洋哺乳類の脂肪層は,密度の高い,緻密に配列された結合組織の厚い層です。
「ニューワールド・エンサイクロペディア」によれば,それらの生き物のほぼ全身を覆う脂肪層は,「緻密に配列された扇形の,腱や靱帯の網状組織によって筋肉系や骨格と強く結合して」います。
この網状組織は,弾性繊維やコラーゲンで構成されています。
コラーゲンは,皮膚や骨にも含まれているタンパク質です。
そのようなわけで,脂肪層は単に断熱効果を持つ脂肪の層以上のものです。
種々の生体組織が複雑に組み合わさっているのです。

イルカの中には,イシイルカのように,時速55㌔もの速度で泳げる種類もあります。
イルカが速く泳ぐために脂肪層はどのように役立つのでしょうか。
一つとして,脂肪層のおかげでイルカは体を流線型に保ちやすくなります。
加えて,尾びれと背びれの間の脂肪層には,コラーゲンと弾性繊維が密に交差しています。
このデザインのおかげで,イルカの尾は弾性を持ち,機械的エネルギーを蓄えることができます。
そのため,筋肉が尾を一方の側に動かすと,脂肪層はばねのように尾を元の位置に戻す働きをします。(この仕組みがすばらしい!)
こうしてイルカは推進力を得,しかもエネルギーを節約できるのです。

脂肪層はまた浮力を与え,熱を逃がさない働きもします。
食べ物が得られない時のエネルギー源ともなります。
種々の物質が組み合わさり,いろいろな働きをするこの脂肪層が,船のエネルギー効率や推進力を高めようとする人たちの注目を引いているのもうなずけます。

エネルギーを使ってエネルギーを発生させるのではなく、構造そのものの仕組みによって効率的にエネルギーが使われたり、自然にエネルギーが置換されるようにすることは、建築にとっても究極の目標です。


豊田